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再び生じたインフレへの注目

高田 創
岡三証券
グローバル・リサーチ・センター
理事長
高田 創

以下の図表1は、米国の物価連動国債が示す期待インフレ率のBEIの推移で、すでに3%近い水準にある。物価上昇は一時的との見方もあるが、株価の堅調さに支えられインフレ期待は続くとみられる。金利上昇局面での債券投資のフロンティアの一つとして今後、物価連動国債の活用も挙げられる。

【図表1】米国の期待インフレ率(BEI)の推移

図表
(出所)Refinitiv (作成)岡三証券 2年物、週足、直近は7月第2週

日本の物価連動国債BEIも底入れしたが、海外発で思惑先行の側面も

以下の図表2は日本の物価連動国債のBEI推移である。日本の物価連動国債のBEIは2014年の消費増税前の上昇を転機としてそれ以降低下が続いていたが、2020年に漸く底入れの兆しを見せている。グローバルな金利が底入れしたなか、日本でも金利上昇圧力はかかり物価連動国債の活用は重要な選択肢になる。

ただし、日本国内での物価連動国債の投資家が限られること、日本ではインフレ期待に乏しいことを勘案すると大きな上昇にまでは至らず、再び低下を生じている。2020年来のBEIの底入れも、海外投資家中心に海外での思惑からの連動の側面が大きいと考えられる。

【図表2】日本の期待インフレ率(BEI)の推移

図表
(出所)Refinitiv (作成)岡三証券 10年物、週足、直近は7月第2週

コロナショックと物価動向

2020年の新型コロナウイルス禍によるショック以降、日米ともに物価の下落が確認されたが、米国は足元では急な上昇に転じている。米国での物価上昇は木材価格上昇や中古車などの価格に反応したとされるが、ワクチンの接種も含めた全般的な経済活動の回復、さらにバイデン政権のインフラ中心に財政拡大という実需に支えられた面もあり、今後の物価動向には注意が必要である。

米国の物価連動国債のBEIを年限別に振り返ると、短期的な上昇のなかで長期的な期待インフレ率の安定が示される。FRB(米連邦準備理事会)が足元の物価上昇を一時的なものとするとのコメントは、米国の早期の政策変更期待を牽制する目的もあるが、市場での先行き期待を反映した面もあると考えられる。

資産インフレ・株価上昇によって変動するBEI

以下の図表3は、市場での物価連動国債が示すインフレ期待(BEI)の推移を示す。BEIの水準は資産価格上昇に沿って大きく底上げされる状況にある。図表に示されるように、BEIは株式市場との連動も強く、インフレ期待の上昇も以上の株価上昇に伴うインフレ期待に沿ったものと考えられる。また、同様の状況は日本においてもあてはまり、物価状況よりもむしろ株式市場との連動が確認される。

【図表3】BEIと株価の推移
(米国)

図表
(作成)岡三証券、週次、直近は7月第2週

(日本)

図表
(作成)岡三証券、週次、直近は7月第2週

物価への見方は分かれるがインフレ期待は高止まりに

金融緩和基調が続くなか資産価格底上げが見込まれるだけにインフレ懸念が根強く続くと展望される。筆者は1970年代80年代の物価上昇・高金利を体験した世代であるが、実感として意識するのは、今日の環境はグローバル化の中での供給過多の状況を抱えるだけに、70年代・80年代とは大きく異なる状況と考えている。

FRB議長のパウエル氏の見方も同様のものと考えられる。実体経済上のインフレはFRBが議論してきたようにある程度限定されても、資産市場では活況が続き期待インフレ率も高まりやすいというのが以上からの一つの帰結であろう。米国の金融政策は出口に向かいだしただけに、金利は既に上昇局面に入っている。そうした中、物価連動国債の活用は金利上昇下での債券運用における重要なツールとして再評価する必要があるだろう。

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