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J-REIT(日本版不動産投資信託)は2021年9月に誕生20周年を迎える。2020年3月の新型コロナウイルス感染拡大で急落したJ-REIT価格は緩やかに上昇中だ。長年J-REIT市場をウォッチしているニッセイアセットマネジメント チーフ・ポートフォリオ・マネジャーの大島正久氏に足元のマーケット動向や今後の注目ポイントなどを聞いた。

住宅セクターは人口動態の変化を注視。シングル向け賃貸は鈍化傾向

大島正久氏
ニッセイアセットマネジメント
チーフ・ポートフォリオ・マネジャー
大島正久氏

年金基金が不動産投資をする場合、J-REITより私募REITを選択するケースは多いだろう。J-REIT市場が誕生した当時、株価は上昇したものの出来高がほとんどなく、低流動性であることを理由に投資対象としなかったことが背景にあるという。しかし現在では、英指数算出会社のFTSEが2020年9月からJ-REITをFTSEグローバル株式指数に組み入れるなど、流動性は随分と高まってきている。では、年金基金などはどのようなかたちでJ-REITを保有するのが有用なのだろうか。

ニッセイアセットマネジメント チーフ・ポートフォリオ・マネジャーの大島正久氏は、「実は、東証REIT指数と日経平均高配当株50指数の過去10年間の推移を比較してみると、東証REIT指数のほうがアウトパフォームしていることが分かる。もしJ-REITへの投資を検討しているなら、不動産のエクスポージャーをとるのではなく、高配当株の代替先として一考に値するのではないだろうか」と提言する。

■図表 東証REIT指数と日経平均高配当株50指数の推移

図表
出所:ニッセイアセットマネジメント

足元のJ-REIT市場はコロナ・ショックの暴落から徐々に回復しつつあると言われている。大島氏は「リーマン・ショック時と異なり、コロナ・ショックでは人の流れは制限されたがお金の流れは制限されなかった。投資マネーが潤沢にあるので、株式もJ-REITも不動産も基本的に大きく下がることはない。そのため下げ幅もリーマン・ショック時ほどではなく、戻りも早かった」と説明する。

「そうはいっても、サブセクターごとに影響の濃淡の違いはあるものの、多かれ少なかれ不動産ファンダメンタルズは影響を受けている」と大島氏。サブセクターのうち、最も回復基調が鮮明なのは物流だ。新型コロナウイルス禍でEコマース(企業間取引)需要が高まり、物流施設の需要も増加した。東京圏も関西圏も物流施設の空室率は低下しており、賃料も上昇中だ。2020年における需要は約3割がEC(電子商取引)業者で、そのうちの4割はAmazonが占めている。「Amazonがマーケット全体の10%を占めているということは、Amazonの動きが鈍ってくると物流市場が弱含む可能性がある。ただ、現時点での需給はタイトなので、そこまで注意しなくてもいいだろう」(大島氏)

物流の次に、相対的にパフォーマンスが良いセクターは住宅だ。大島氏は住宅セクターを見る上で、東京の人口動態の変化を注視する。大島氏は、「2020年、東京からの転出者は前年比4.7%増えたのに対して、転入者は7.3%減少した。賃貸物件を『シングル』(約20㎡)、DINKS(ダブル・インカム・ノー・キッズ)向けの『コンパクト』(約40~50㎡)、『ファミリー』(約60㎡)の3つに分けた賃料グラフでは、ファミリーとコンパクトは比較的賃料が堅調に伸びている一方で、シングルは明らかに鈍化していた。シングルの需要が低下している理由として、リモートワークがある程度浸透したことで都心の会社の近くに住むメリットが減ったことや、地方の学生が上京できていない、あるいは在留外国人の急減が考えられる」と分析しつつ、「しかし、2021年2~3月のいわゆる引っ越し繁忙期のデータではこうした傾向はある程度改善されている」と意見を寄せる。

オフィスセクターは「ブラウンディスカウント」リスクに備える

過去5年のバリュエーションを比較して最も戻りが遅いオフィスセクターの近況は、空室率は上昇傾向にあり、賃料は下落傾向にある。大島氏は、「要因はいくつかあり、まず1つめは2020年に東京で大規模オフィスビルの大量供給があったこと。過去の平均供給量は約100万㎡だが、2020年は187万㎡と高水準を記録した。2つめは、築古・既存オフィスビルの『二次空室』問題だ。二次空室とはテナントが退去後に次の借り手が現れなないこと。新しく開発されたオフィスビルの空室率は低いが、その分築古のオフィスビルの二次空室が増加しており、オフィス市場の空室率の上昇につながっている」と述べる。「リモートワークの影響による突然の大型オフィスのテナント退去には注意したい。REITの減配リスク要因になる」(大島氏)

そんなオフィスセクターの今後の展望として、昨今のESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)の潮流を受け、建物の省エネ性能や健康性能が不十分な場合、賃料や資産価値が市場価格を下回る「ブラウンディスカウント」の影響が出てくる可能性を大島氏は指摘する。「1981年に建築基準法が改正され、それ以前の旧耐震基準からより厳しい新耐震基準へと引き上げられた。この新耐震基準を満たしていない建物は、のちに大規模修繕工事が必要になったりするなどの理由から入居者の意思決定に作用し、賃料の低下や空室率の上昇要因となった。このケースと同様のことが、ブラウンディスカウントとして表出してくるかもしれない」(大島氏)

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