REITが運用難のフロンティアに

岡三証券
グローバル・リサーチ・センター
理事長
高田 創
今から1年前、2020年11月の当寄稿では、歴史的な低金利環境下における魅力的な投資先としてREIT市場を挙げた。同じ資産市場でも、株式市場は2020年初のコロナショックで影響を受ける前の水準をすでに2020年中に取り戻したなか、REIT市場は戻り切れていない状況に注目したからだ。
その後、2021年度上期相場を振り返れば、以下図表に示される東証REIT指数はコロナショック前の水準を回復。株式市場と比べたREIT指数の出遅れは、2020年初に生じた地域金融機関中心の投げ売りに伴う市場の歪みというのが筆者の認識であり、金利水没下の運用難のフロンティアとしてREITを位置付けている。また、不動産市場におけるコロナ後のニューノーマルとして、所有と経営の分離の受け皿にREITの機能を重視している。

作成:岡三証券
日足、直近は9月16日
REITの分野ごとの乖離
コロナショックが「コロナ7業種」を中心に深刻な影響を及ぼすなか、分野別の二極化が特徴となった。コロナショックで最も大きな影響を受けたのが宿泊業であっただけに、その回復は遅れ、以下の図表でもホテルはコロナショック前の水準に回帰していない。テレワークや郊外への分散などの広がりで、オフィスも危機前の水準には届いていない。
一方、宅配などの需要拡大により、物流施設は賃料の上昇期待も生じ、EC需要を含めたニーズも強く、物流分野は大幅な上昇が続いている。住宅はコロナショックでも比較的安定した分野でショック前を上回る水準にあり、商業分野もコロナ前の水準に戻っている。REIT市場は分野による乖離は今後も続くと考えられるが、インカムが確保される観点からREITへのニーズは続くとみられる。

出所:日経QUICK、J-REIT各社の資料より岡三証券作成
直近は2021年8月末
※2019年末=100として指数化
REITの分配金利回り状況
以下の図表はJ-REITの分配金利回り推移である。長期金利(10年国債利回り)や東証1部株式配当利回りと比較して高い水準にある。ここで、「J-REIT分配金利回り - 10年国債利回り」をスプレッドとすると、スプレッド水準は3%超の高い水準にある。金利水没の状況下、LED戦略のなかでのインカム上の優位性がREITに向けられた。
さらに、過去1年の株式市場の上昇により株式の配当利回りが低下するなか、株式との相対的関係からも一層、REITへの関心が高まりやすい。2021年度になって金融機関を中心に運用難が一段と強まるなか、最後のフロンティアがREITとなった面もある。
先の図表に示されたスプレッドは依然ミニバブル期よりも高く、今回の支えはマイナス金利も含めた超低金利にあることが示される。REITも含めた不動産市場への見方は常に、「行き過ぎ」「バブル」とされることも多かったが、ミニバブル期に比べて過熱感に乏しいと考えられる。

出所:不動産証券化協会、Refinitiv
作成:岡三証券
月次、直近は21年7月
※スプレッドはJ-REIT分配金利回りと10年国債利回りの差
REITへのニーズ回復に
投資家の資金が2020年度中、REITに向かわなかった背景には、REITの保有者構造の偏りがあった。2019年度、地域金融機関がREITの大口保有者となり2020年2月、3月の決算前に大幅な処分売りが生じた。
とくに地域金融機関中心にロスカットルールに抵触。取得価格の15%~20%の下落が生じたなか、ロスカットルールで売りが売りを呼んだ可能性がある。これらの投資家層が2020年度中は再び参入するまでにはならなかったが、その後、2021年度になって再び参入が生じたと考えられる。
本来、REITの投資家は長期にわたる安定的収益の確保を念頭に置いているだけに、2021年度になってインカムの安定性が魅力のREIT市場に復帰してきたと考えられる。
運用難にあってJ-REIT投資のインカムニーズ再認識
2021年9月10日、創設20周年を迎えたJ-REIT市場は約18兆円規模に達している。金利水没のマイナス金利環境による運用難が一層強まるなか、地域金融機関を中心に預貸ギャップ拡大が続くだけに、REITによる安定的利回りは重要な運用対象になっている。
従来常識であった「債券=インカム」、「株式=キャピタル」の構図が、金利水没下の債券のインカム喪失にあって、代替的インカム商品を求める潮流が続くと考えられる。このような状況のなか、REITに対し新たなインカム商品との位置付けがより強まると考えられる。コロナ下の苦境、不動産二極化は今後も続き市場参加者の選別眼も求められるが、金利水没下の投資フロンティアとしてのREITへの期待は引き続き高いと考えられる。