コメント (0)

混とんとする米国債務上限問題

中空麻奈
BNPパリバ証券
グローバルマーケット統括本部
副会長
チーフクレジットストラテジスト
チーフESGストラテジスト
中空 麻奈

米議会の2019年債務上限停止が2021年7月末に期限切れとなったが、いまだ解決策の発表に至っていない。すでに、債務とこれまで設定してきた規定の債務水準には大幅な乖離が見られ、一刻も早い解決が待たれる(図表1)。

現在、財務省は債務返済を特例措置に頼っている状況にある。手持ち資金が枯渇するいわゆるXデーまでそれが続く。2021年6月、イエレン財務長官はその日が2021年8月終盤にも訪れる可能性を警告していた。CBO(議会予算局)の2021年7月の試算では、そのタイミングは2021年10月か2021年11月である。

議会が債務上限に対処する方法は、より高い水準に設定し直すか、再び一定期間運用を停止するか、である。また、そうした決定のためには、①上院で60票を必要とする通常の採決か、②上院で50票の賛成で済む財政調整措置を用いるか、の大まかにこの2つのどちらかが必要だ。現段階では共和党の10票以上の賛成を必要とする通常の採決を狙っており、審議の行方は混とんとしている。

【図表1】債務上限関連イベント前後の公的債務と財務省の現金残高
図表
(出所)出所:US Treasury、Macrobond、BNPパリバ証券

議会は2022年度の政府支出を賄う法案を可決する必要がある。おそらくは政府の予算を現行水準に維持する継続決議CR(Continuing Resolution)の形となるであろう。政府閉鎖を避けるにはこれを2021年度末の9月30日までに成立させなくてはならない。

現在、マコネル上院院内総務は債務上限の引き上げや停止を支持しないという共和党幹部会の考えを示し、民主党自ら財政調整法案を可決するか、デフォルトを選ぶよう呼び掛けている。民主党は上院の共和党議員らが最終的にデフォルトを迫るより、債務上限規定を伴うCRの可決を選択すると踏んでいる、と平行線にある。

混とんとした状態から超党派の立法を必要とする決着を目指すには少なくとも時間がかかる。9月に持ち込まれることは必至だ。

膨張した米国財政赤字

新型コロナウイルス禍の戦いは世界中で続いているが、金融政策と財政政策で何とか支える状況がこれまで続いてきたことは周知の事実である。これまでの大盤振る舞い気味の財政政策により、世界中が無理してきたことは確かである。

図表2は財政赤字対GDP比を示したものだが、米国の同値は相当深刻であることが見て取れる。債務残高対GDP比で見れば、250%を超えた日本には及ばないものの、米国の同値も150%を超えており、債務状況に問題がないとは言い切れない。

【図表2】財政赤字対GDP比(2020)
図表
(出所)出所:Worldbank、Macrobond、BNPパリバ証券

昨今の金融市場を脅かす最大のポイントの一つに“いつ金利が上がるのか”があるが、これから金利は上昇局面に入っていく。ところが、ここまで債務が増えていると、金利支払いだけでも相応に足かせとなることは目に見えている。金利支払い対歳入比で見ると(図表3)、米国はその影響が大きいことがわかるであろう。

【図表3】金利支払い対歳入比(2019)
図表
出所:Worldbank、Macrobond、BNPパリバ証券

コメントを書く