低金利による運用難が続くなか、リターン獲得手段の一つとして新興国資産の存在感が高まっている。一方、米国のテーパリング(量的金融緩和の縮小)のスケジュールが語られ始めたことで、新興国市場からの投資マネー流出への懸念が強まっている。強弱の見通しが入り交じる新興国資産とどう付き合うべきか。連載「Asset Watch 新興国資産編」第2回では、野村證券 フィデューシャリー・マネジメント部 シニアコンサルタント 髙橋亨氏に機関投資家による新興国資産の投資状況などについて聞いた。
2020年は新興国株式のパフォーマンスが先進国株式を上回り首位に
2020年度の主な資産クラスのパフォーマンスを振り返ると、新興国株式の上昇率が最も高く、通期リターンは62.7%であった。足元のパフォーマンスが良好であることも追い風となって、新興国投資に対する投資家の関心は低くはないものの、今のところ年金基金による新興国資産の採用が勢いよく伸びてくる兆しはみえない。

出所:野村證券
※「wH」は「為替ヘッジあり」を示す
数十の機関投資家の運用をサポートする野村證券 フィデューシャリー・マネジメント部 シニアコンサルタントの髙橋亨氏は、「株式に関して、新興国株式特化のプロダクトへの投資を行っている企業年金の数は限定的である。年金基金のターゲットリターンは2~3%と相対的に低く、リターン不足の解消よりリスク低減に配慮していることが一因にあるのではないだろうか。ポートフォリオ全体のリスクを低減させる方向に動くなか、価格下落リスクをより高める新興国株式特化のプロダクトの採用を控えていると思われる」と明かす。

野村證券
フィデューシャリー・マネジメント部
シニアコンサルタント
髙橋 亨氏
髙橋氏によると、一般に年金基金が新興国株式へ投資する場合はMSCI ACWI(MSCI世界株式インデックス)型のプロダクトへの投資で部分的に新興国市場の収益を得るアプローチか、あるいは先進国株式への投資のみでも、グローバル企業への投資により間接的に新興国市場の収益を得ることができるといった考え方が多い。
「近年、株式投資では、ファクター投資や10~30銘柄の株式ポートフォリオで運用する集中投資戦略が注目されている。新興国株式のパフォーマンスを振り返ると、スタイルファクターの中でも特に最小分散指数はリスクが低く、足元10年超の長期間で通常の新興国株式より高いリターンとなっている。ただし、今のところ新興国株式の最小分散のスタイルを志向するプロダクトは少ないため、投資を検討するとしても吟味が必要だろう」(髙橋氏)

出所:野村證券
後者の集中投資戦略のプロダクトのポートフォリオにおける構成国比率は米国と中国を中心としたアジア新興国が多く含まれるという。「集中投資戦略のプロダクトは新興国も含む銘柄でポートフォリオを構築しており、特に中国を中心としたアジア新興国銘柄の比率が比較的高い。より高い収益を獲得するために、新興国のトップ企業に一定程度投資するケースが多いと思われる。数年前と比較すると、新興国株式銘柄をポートフォリオに含める集中投資戦略のプロダクトを採用する機関投資家が徐々に増えているため、結果的に一部で新興国のエクスポージャーをとるケースが増えつつあるといえる。なお、新興国株式特化型ファンドに対する投資ニーズは依然として増えていない」(髙橋氏)
新興国債券への投資は、「債券内」ではなく「ポートフォリオ全体」で考える
J-MONEYの編集アンケートでは新興国の金融情勢などについて関心を寄せる声も一部ではあるものの、野村證券が毎年実施しているDB年金アンケート調査の債券運用に関する項目で「新興国債券を増やしたい」とする回答は他戦略と対比して必ずしも多くなく、例年アンコンストレインド債券を「増やしたい」とする回答割合の多さが目立つという。髙橋氏は、「弊社のアンケート調査で示す通り、新興国債券特化型プロダクトへのニーズは必ずしも高くはない。一部に新興国債券が含まれているアンコンストレインド債券のプロダクトへ投資するのも1つのアイデア」と提案しつつ、「その他、年金基金では、同様にクレジットに該当し、低流動性資産でもあるダイレクトレンディング戦略(プライベート・デット)への投資が近年特に増えてきている」と話す。
新興国資産へ投資する際、地政学リスクは必ず意識しなければならない。ESG(環境・社会・企業統治)の「G」についてしっかり精査しているアクティブ運用のプロダクトを選択することが重要だ。また、新興国債券はクレジット投資であるため、先進国債券と同じ感覚で投資をすると痛い目を見ることに。「新興国債券への投資を検討する際は、運用ポートフォリオの全体最適を考慮して組み入れていくことが不可欠だ。新興国債券はクレジットリスクを多く内包し株式との相関性が高いので、債券やオルタナティブの枠でポートフォリオに入れる場合、同時に株式のリスク低減などにも配慮し、ポートフォリオ全体のリスク量が想定よりも過大にならないように全体のバランスを取ることが必要となろう」(髙橋氏)