金融庁は2022年3月11日、公的保険制度を解説したウェブサイト『公的保険ポータル』を開設した。当サイト設立の趣旨や背景、目指すべき方向性などについて金融庁監督局保険課の西沖悠課長補佐に話を聞いた。
(『保険マーケティング』2022年6月発行号より転載)
リスク・公的保険・民間保険の関係性をわかりやすく解説する

金融庁
監督局 保険課
課長補佐(総括)
西沖 悠(にしおき・ゆう)氏
──本年3月に開設した公的保険ポータルについて教えてください。
人生で起こり得るケガや病気、老齢、死亡などのリスクに対し、わが国にはどのような公的保険制度が整備されており、さらに民間の保険にはどんな選択肢があるかについて解説したウェブサイトです。
開設の背景として、2021年12月に保険会社向けの監督指針を改正したことが挙げられます。保険募集人が民間保険を提案する際に、対応する公的保険制度についても各社、創意工夫の上で説明してほしい、ということを監督上の着眼点として明確化しました。
日本の公的保険制度は手厚く、民間保険に加入する際は、公的保険の理解が重要です。しかし公的保険の内容が国民に広く周知されているわけではないという問題意識は以前からありました。そこで監督指針に定めるだけでなく、金融庁自身が率先して公的保険の周知に取り組むことが重要であると考え、本サイトの開設に至りました。

出所:金融庁『公的保険ポータル』を基に編集部作成
──特に周知が必要だと感じている分野はどこでしょうか。
まず年金の分野です。保険の募集人が個人年金保険を売りたいがために「公的年金はあてにならない」と説明する事例を聞くこともあります。それを防ぐためにも公的年金に対する正しい理解が欠かせません。さらに金融庁の中でも特に関心の高い分野の一つが医療保険です。例えば、自己負担限度額を超えた医療費が払い戻される高額療養費制度を知らずに、必要以上に民間の保険に加入することは適切ではありません。
とはいえ、公的年金だけではニーズを満たせない場合もあるでしょうし、高額療養費制度ではカバーし切れない医療費もあります。民間保険は公的保険を補完するものであり、必要な保障に必要な範囲で加入するためにも公的保険の内容を知ることが肝心です。
厚生労働省との綿密な連携リーフレットとしても活用可能
──サイトの作成に当たって特に注意した点やこだわった点はどこでしょうか。
大きく3つあります。まず、1ページ目の一覧表です。人生に起こり得るリスクとそれに対応する公的保険、それを補完する民間保険の関係性をわかりやすく表現しました。老後の備えには老齢年金があることは広く知られていると思いますが、死亡に対する遺族年金は意外と知られていないかもしれません。個別のリスクと保障を紐づけて一覧表にしたのが特に力を入れた点です。
その上でそれぞれの解説を次ページ以降に設けました。さらに詳しく知りたい方に向けて厚生労働省の該当ページへのリンクや、相談窓口の連絡先なども掲載することで、ポータルサイトとしての役割を高めました。
2つ目にプリントアウトすれば、リーフレットとしても活用できる体裁にしたことです。保険募集は対面で行うケースが多いと思います。その場合に、お客さまにお渡しできるよう利便性を高めました。
3つ目に厚生労働省との連携を重視した点です。役所は縦割りの印象を持たれやすいものですが、このプロジェクトに関しては、2021年から頻繁に連絡を取り合いました。正確性の担保で、数多くのコメントをいただきました。
──公的保険ポータルを保険募集人はどのように活用すべきでしょうか。
監督指針やパブリックコメントでも回答した通り、顧客への説明のあり方というのはルールベースではなく、保険会社や募集人の創意工夫にゆだねられるものです。公的保険ポータルを必ずしも活用してほしいということではありません。同時にこの公的保険ポータルに記載されている内容を説明しさえすればいいというものでもありません。当庁が考える理想は、顧客一人ひとりの状況に応じて、リスクと必要な保障を顕在化させ、公的保険の補完となる民間保険が過不足なく提案されることにあります。これを実践するには、高度なシミュレーションやコンサルティングが募集人に求められるのではないでしょうか。
公的保険をしっかり説明すると民間保険が売れなくなるという意見もあるかもしれません。しかし備えるべきリスクや必要な保障を正しくコンサルティングし、ニーズに合致した商品をプレゼンするのは民間企業として当然のことであり、むしろより良い販売につながると考えます。
例えば、年金の場合は、詳細なシミュレーションが有益と思われますが、1日だけの掛け捨てスポーツ保険で、シミュレーションを望む顧客はいないでしょう。顧客の事情やニーズによってプレゼンの仕方は変わってくるので、募集人の創意工夫が問われます。より良いプレゼンを後押しするツールの一つとして、公的保険ポータルが機能すれば幸いです。