(撮影:的野弘路)
真山 仁
1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者、フリーライターを経て、2004年に『ハゲタカ』(講談社文庫)でデビュー。近著に『アラート』(新潮社)、『玉三郎の「風を得て」』(文藝春秋)、『ここにいるよ』(祥伝社)、『ウイルス』(潮出版社)
盤石といわれる企業に買収をしかけるのが、「ハゲタカ」シリーズの面白さ
『チップス ハゲタカ6』では、半導体ビジネスの頂点に君臨するFSCという企業に、鷲津たちが挑みます。
ここ数年、日本では「日の丸半導体」の復活を目指して、多額の税金を投入しながら政官民一体で取り組みを進めています。目線の先にあるのは、世界最強のファウンドリー(受託生産)企業のTSMC(台湾積体電路製造)なのでしょうが、日本が目指す方向として、それが果たして正しいのでしょうか。そもそも、TSMCの未来も「盤石」とは限りません。
未来永劫、「盤石」であり続けるのは不可能です。歴史がそれを証明している。今回は、台湾や半導体ビジネスを巡って現在進行中の出来事を横目で眺めつつ、小説家の妄想力で未来に起こりうるカオスを予想しながら執筆しました。
『チップス ハゲタカ6』は上下巻というボリュームですが、グイグイ引き込まれ、1日で読了しました。「半導体」という補助線を引くと、世界の政治・経済を見る解像度がこれほど上がるとは、と驚きました。
半導体は、各国の軍事力と深く結びついています。今の軍事ドローンやAI(人工知能)兵器の頭脳を司る高性能チップには、TSMCの最先端半導体が欠かせません。半導体を制する者が、世界の力を独占できると言っても過言ではありません。
日本の半導体産業は、なぜ、競争力を失ってしまったのでしょうか。
私は、1980年代後半から1990年代初めのバブル経済が一つの原因だと見ています。
当時、日本の電機メーカーは、「総合」と冠されるように、テレビや冷蔵庫からミサイル向け半導体までを手がけていました。AIのない当時の半導体は、シンプルな機能が重要視されていたため、次第に韓国などの新興メーカーの安価な半導体に押されていきました。
バブルで人件費が高騰したこともあり、多くの総合電機メーカーは、利益の出にくい半導体に関心を失い、研究開発費を絞り込みました。一方、TSMCは、ファウンドリーに特化した事業モデルを磨き、他国のメーカーの手の届かない超微細技術を手に入れました。

ノスタルジーからは、何も生まれない
『チップス ハゲタカ6』では、日の丸半導体復活の切り札とされるフェニックス社について、「ノスタルジーからは、何も生まれないと思っています」と評するシーンがあります。
ビジネスで勝ち抜くには、自らの弱点を見つめ、それを徹底的につぶす覚悟が必要です。ノスタルジーに浸っている間は、自らの失敗を「運が悪かった」と思い込む。かつての黄金時代をうっとりした表情で語る半導体関係者を見るたびに、日の丸半導体復活は難しいだろうと感じます。
鷲津が、一歩引いて部下に買収案件を任せるなど、『チップス ハゲタカ6』は、企業のリーダー論や組織論としても示唆に富んでいます。変化に強いチームの条件とは?
デジタル化が進めば進むほど、「人間臭さ」とも言うべき、人としての“手触り感”のある魅力の価値が増すのではないでしょうか。知り合いに、自筆の手紙で仕事を依頼する編集者がいます。いまどき、封書を受け取ると、ある種の感動を覚えますよね。それは、その人らしさが伝わるからです。一人ひとりの「らしさ」が発揮できると、チームは強くなる。
変化に強いというのは、ブレないけれど柔軟であることだと思います。この点においては、AIよりも人間に、一日の長があると信じています。