著者インタビュー『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』
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日経平均株価が5万円を超えたのに生活が豊かになった実感がない──。『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の著者の佐々木融さんは、そのキーワードとして「実質金利の大幅なマイナス」を挙げる。日本経済の構造問題の背景や円の価値がどんどん安くなる社会を生き抜く処方箋、そして、取材で語ったメッセージ「これからは対面型の金融機関の強みを生かせる時代」の真意とは。
佐々木 融 氏

佐々木 融

ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト

1992年日本銀行入行。為替市場介入を担当した後、ニューヨーク事務所にも駐在し米国の金融市場分析も行った。2003年4月JPモルガン・チェース銀行に入行し、為替調査部長、市場調査本部長などを歴任。2023年12月から現職。

本書の一節「今の円安・インフレが続けば、14年後くらいに日経平均株価が15万円になっても驚きではない」には、読んでいる私が驚きました。

株式がインフレ向きの資産と言われる理由の一つは、物価の上昇とともに名目値が上昇しやすいからです。つまり、物価が上昇する世界では企業の売り上げは数字上(名目上)増えます。その結果、利益も数字上(名目上)増えることになります。だから株価も上がります。そのため、将来、日経平均株価が15万円になっても、私たちの感覚からすれば、今の5万円台とあまり変わらないはずです。なぜなら、その頃には円安を起点とした物価上昇が、現在よりもはるかに進行している可能性が高いからです。

ある政治家の「外為特会(外国為替資金特別会計)の運用ホクホク状態」発言のように、日本人の間には「円安は善」のイメージが根強いと感じます。

自国通貨の価値の下落が経済にとって良いことなら、1997年のアジア金融危機時の韓国や近年のトルコおよびアルゼンチンは好景気に沸いたはず。しかし実際は反対で、国民は深刻なインフレに悩まされ、経済は低迷しました。

1980~2000年代半ばまでの日本は、国際的な競争力のある製品がたくさんあり、多額の貿易黒字を稼ぐ国でした。しかし、多くの業界で生産拠点が海外に移管され、輸入が増えるようになると、「電気機器」などの分野を中心に貿易黒字を稼げなくなり、恒常的な貿易赤字国になり始めています。

「円安は日本経済にプラス」は、日本が貿易黒字国であり、輸出競争力が高かった時代の議論です。実際、日本の税収は2024年までの5年間で17兆円近く増えましたが、米ドル建てで見ると10%程度減少しています。弱くなった自国通貨で換算して「企業収益が増えた」「税収が増えた」と、数字が大きくなったことを取り上げても意味はないのです。

円という「紙切れ」は、信用を失い、取り戻せなくなる瀬戸際

その円安を加速させる要因として、佐々木さんは「実質金利の大幅なマイナス」を挙げています。

実質金利のマイナスとは、預貯金に物価上昇率なみの金利が付かないということです。2026年4月上旬時点の政策金利が0.75%で、銀行の普通預金金利が0.3%。一方、物価上昇率は補助金がなければ3%程度ですので、単純に預金していたら1年間で3%-0.3%=2.7%も実質的にお金が減ってしまいます。

10年間なら預金の実質価値は3/4まで目減りします。1000万円の預金が10年経ったら750万円に減ってしまう弱い通貨の円など誰も持ちたくないし、海外の企業や投資家は買わないですよね。残念ながら円という「紙切れ」は、信用を失い、取り戻せなくなる瀬戸際にいると見ています。

日銀が政策金利を引き上げれば、実質金利の大幅なマイナスが緩和できそうですが……。

政策金利を引き上げれば、長期金利が上昇し、政府が抱えている借金の利払い負担も増えます。実質金利の大幅なマイナスが解消される2%台後半といった政策金利の引き上げには政府は大反対でしょうから、日銀が決断するのは非常に難しいと言わざるを得ません。

投資は「インフレという見えない損失」から自分の資産を守る行為

円安もインフレも当面続きそうとなれば、私たちは自分の資産を自分で守るしかなさそうです。

長らく続いたデフレ時代を「失われた30年」と呼ぶことがあります。デフレ下では物価が静かに下がるので、生活防衛手段としては、ひたすら現金を持ち続けていることが正解でした。しかしそれによって、より良い生活を送るために、情報を集め、比較検討する機会が減ってしまった。この30年で、私たちは経済成長とともに、「自分の身は自分で守る」という、当たり前の意識も失ってしまったのではないでしょうか。

これからは、「お金を持っているだけ、預金だけでは資産が目減りし続ける」という新しい常識の下で日々行動すべきといえそうです。

私には実と義理の合わせて3人の親がいて、いずれも高齢です。預貯金だけではせっかく貯めた資産が目減りする一方なので投資を始めようとなり、積み立てNISAや個人向け国債を購入するのをサポートしています。投資は「インフレという見えない損失」から自分の資産を守る行為です。年齢や投資経験の有無、金融リテラシーなどに応じて、個別株や投資信託を検討してもよいと思います。

『フィナンシャル・マーケティングWEB』の主な読者は、金融機関の投信販売員の皆さんです。最後にメッセージとして、日頃のセールス業務で実践してほしいことを教えてください。

投資の目的や運用額、リスク許容度は人それぞれです。デフレ下では投資の意義を説明するのが難しかったかもしれませんが、これからは一人ひとりに合った投資アプローチが求められます。お客様と向き合い、それぞれの悩みや希望を聞きながら適切な商品を紹介する対面型の金融機関の強みを生かせる時代といえるでしょう。

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